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手芸道具を詰め込んだ博の自転車に付いている籠が、やかんが動く事で、からんからんと音を立てる。
博の親父から貰った自転車と言うだけあって、中々古い。それがよく分かる様に、ペダルを漕ぐ度に、後輪が軋む。後で油を差しとこう、そう思いつつ、その音に少々煩わしさを感じる彼であったが、そんな事を気にしていては身が持たないと、ペダルを漕ぐ足へ更に力を加えるのだった。
もうすぐそこまで秋が来ていると言う事もあり、いつもの様な真夏日の鬱陶しい程の生暖かい風ではなく、秋らしく寒ささえ覚えそうな涼しい風が吹き抜けていた。
もう、扇風機に世話にならなくて良い事を、悟っていた。
舗装されるも、凸凹としているアスファルトの道を行くと、ガードレールが見えなくなった辺りから、延々と続く森がある。今日が涼しいとは言え、日差しがきつい。森が影となり日差しが当たらないこの場所は、夏の暑さをやり過ごす、格好の場所でもあった。やがて見えた角を曲がり、鼻歌を歌って調子付きながら、家へと向うのだった。
やがて、アスファルト舗装なぞとうに行き届かない、小石交じりの道を抜けると、自宅へと帰って来た。
自転車を留め、荷物を持ち玄関へと向う。しかし、これが原因で、博が痛い目に合うなどと、誰が思っただろうか。
「ただいまー」
「ああ、お帰り。」
博の帰りに返事をしたのが……博の母。
いつもはやたらとテンションの高い彼女なのだが、今日この時間に至っては疲れ交じりの声であった。
「丁度良かったわ。今棚のもの片付けているんやけどねー、高い所に手ぇ届かんで、手伝って欲しいんよ。」
「分かったで、俺買って来たもん俺の部屋に置いてくるさかい、ちょっと待ってや。」
「うぅん。」
分かったのか、そうでないのかという返事だったが、分かったと解釈し、自分の部屋へ階段を上がる。
ロクに改修もしていないのか、階段が軋む。シロアリ対策は大丈夫だろうか……とか何とか考えていたが、有る事を思い出した。
(……せや、俺、チャリの籠にやかん入れっぱなしやったんや。……まぁ、えっか。)
実はこれが後の悲劇である。
実は、やかんは……自転車からひとりでに転げ落ちた後、野うさぎの如くぴょんぴょん跳ねて玄関へと向かい、どういう訳か戸をすり抜けて、びゅーんと博の方へ接近していた。
やかんが飛ぶ速度は博も絶するほどであり……
そんな事など知る由もない彼は、そのまま階段を上がり――
「へぶしっ」
博の後頭部へ見事なクリーンヒットを決めた。今年一番にもなりうる、博への迎撃だ。
「博ー?どうしたんやー?」
博の悲鳴と、やかんが博の後頭部に直撃した音で、博の母は驚いたのだ。
「いったー……何でもあらへん、気にせんで」
「ほーか?」
やかんはどこぞのアメリカンコミックスの様にキキーとブレーキを掛けて、博の方を向いた。
そして例の如く、もやもやと煙をあげて、魔人もどきが現れる。
「酷いなー僕を置いてっちゃうなんて……そりゃないぜ!」
「酷いのはどっちやねん!いきなり人の頭殴っといて!」
「Oh,sorry.」
博は自分の後頭部に手を当てると、そこには大きなこぶが出来ていた。
触ると、ひりひりして痛い。どないしてくれんねん!この落とし前きっちり付けようやないか、と怒鳴りたかったが、もうそのジョニーと抜かす魔人紛いは居なくなっていた。
「はぁー……」
博はえんやこらせ、と荷物を持って自分の部屋へ行き、荷物を置くと、一階に下りて、適当に布にひっくるめた氷をあて、こぶの腫れをひこうとした。
幸い、こぶは数時間もすれば引っ込んだが、その後荷物整理の為、彼は容赦なく母にこき使われる事になった。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
- 2007/09/21(金) 21:53:35|
- 小説
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